発語のない子どもの教え方:言葉の発達の促し方

 今「ドラキュラ(Dracula)」の本を読んでいます。ドラキュラは、Bram Stokerという人が1897年に発表した小説で、トランシルバニアのお城とイギリスを舞台にした吸血鬼の話なんです。へえー、元々小説だったのね。英語で読んでますが、内容はかなり面白いのに、やっぱり英語だと日本語よりも頭を使うんでしょうか、疲れるんですよね、中々進みが遅い。アメリカには12年以上住んでいたので、特に大きな問題なく英語で会話してお仕事もこなしていたのですが、それでも帰国子女ではない私に取っては、英語での完全なるリラックスは難しいかもしれない。帰国してもう7、8年経っていますし、英会話も久しぶりだと言葉も出遅れますね。中々思っている単語が出て来ない事も多い。…!ただの老化?

 言葉の発達を促すのは、自閉スペクトラム症(ASD)診断を受けた子どもにとって、そしてその療育をしている者にとっても、永遠のテーマです。ABAの療育でもほぼ無発語から普通級に通うようになるまでに成長する子もいれば、無発語のままである事もあります。自閉の診断を受けて教室に通う子どもの中でも、無発語だったり、そもそも発声自体が少ないタイプのお子様は、ある程度の割合でいます。「言葉が話すことができれば…」「何とかしてこの子に話すようになってもらいたい」と言う目的でABAを探して来られる方も少なくはありません。しかし無発語で、かつコミュニケーションの意思自体があまりない場合、ABAや言語聴覚士などの専門家についても、やはり言語習得の道のりは簡単ではありません。

 理由の第一は、発声をお手伝い(プロンプト)してあげることができない。他の行動はこちらが手を取ったりして動かしてあげて、「こうするんだよ」とやらせてあげる事も可能です。でも、声ばっかりは首を絞めて絞り出してあげるわけにもいかない。声は、自分から出すのを待って、出た瞬間に強化する以外にないのです。発声の行動を強化する一つの方法を逆模倣と言います。子どもが声を出した時にそれを大人が真似してあげる事です。場合によっては、「あー」と言っただけでも、「あー、雨だね。お話できたね。」とその時に適切な言葉に(もしかすると雨の意図で言ったわけではなくても)替えて言ってあげると、より自然に褒めることも可能になります。まずは全体の発声の頻度を上げた上で、徐々に「シェイピング」と言いますが、適切な言葉に変えていく。たとえばアンパンマンのおもちゃが欲しい時は、「あー」だけでなく「あん」とアンパンマンに少しだけでも近づいた時に強化する。徐々に最終目標の「アンパンマン」に近づけていく。気の長い話になってしまいます。お手伝いができない場合は、時間がかかるのです。だから、ABA療育は非常に長時間の療育時間を必要とする、もしくは保護者が家庭でちょっとでもその練習機会を増やしてあげる必要があるのです。

 理由の第二は、似ているかもしれませんが、練習の機会が少ない事です。元々喋っていないのですから、強化する機会が本当にない。たくさん強化をして行動を少しでも多く増やしたい。でも、行動が起こっていないと強化はできない。また自閉傾向が強い場合、興味自体があまりなくて、コミュニケーションを取ろうとする意図がほとんどない場合も多い。たとえば定型発達の子は、喋らなくてもあっちを指差し、こっちを指差し、見ているもの、興味のあるものを伝えてくる。でも、自閉スペクトラム症の子どもは、こういう気持ちの共有自体がほとんどない場合が多い。こうなると、コミュニケーションの練習の機会が非常に少なくなってしまいます。

 言語でなくてもコミュニケーションの強化の機会を作るために、代替コミュニケーションというのを使います。たとえば、手話、PECS(絵カードを使ったコミュニケーション)、ジェスチャーなど、言葉で言う代わりに他の方法で伝えるのです。「写真を手渡してコミュニケーションすると、欲しいものが手に入る」「コミュニケーションは楽しい」と言うことが体験できると、たとえばPECSのように発声を一切使わないコミュニケーションを使っていても、実際に発声が増えると言う研究結果も出ています。実は、コミュニケーション全般を増やすことが、遠いようで発語・発声というものを増やすことにもつながるのです。

 また、要求のような直接何かが手に入るような体験だけでなく、音って、言葉って楽しいという体験も非常に大切になってきます。教室では、楽しい活動をして、その時にいろんな言葉(擬音語や擬態語も含めて)のお手本を見せます。要求だけでなく、遊びの中で楽しい音から真似して発声が増える場合も多いのです。専門用語では「ペアリング」と言いますが、その音と楽しいことが一緒に現れることで、音自体の価値が上がることを言います。たとえば、テレビ番組の言葉や歌から発語が始まる場合、ありますよね。音(言葉)を聴きたいから、自分で言う。こう言う楽しい活動をたくさん見つけてあげる、一緒に遊んであげる、こう言うことも、遠回りのようで言葉の発達に非常に重要になるのです。

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