執行機能 Executive Function

 色んな仕事が分刻みに飛び込んできて、何しているか分からなくなること、ありませんか?仕事をしていて顔を上げると職員と目が合って「教材を作ったのでチェックしてください」と声がかかる。教材をチェックしている内に名古屋市役所から電話がかかってきて対応する。電話の対応が終わってコンピューターを開ければメールが山積みで、返答を始める。返答が終わらないうちに、また次の職員から声をかけられる。あれやって、これやって、気づけば時間が過ぎていて、私がやる予定だった仕事が一つも進んでいない。私はキャパが大きい方ではないので、仕事があまりに多いと、だんだん何をしているのか分からなくなってきます。「キャパオーバー」状態の人って、周りから見てもわかるんでしょうね。職員も気を遣って「これチェックできますか?でも、時間がある時で大丈夫です。」と言ってくれます。優しいのね。でも、時間がある時っていつのことやねん?今やらずにその仕事を放っておくと山積みの仕事の中で忘れ去られてしまう。「3歩歩くと忘れちゃうので、今チェックします。」といつも答えています。本当に3歩歩くと他の仕事が入ってきて、さっきまでやっていた仕事が中断させられてしまうことも多い。夕方になって「ああ、今日も何も成し遂げられなかった・・・」とガッカリして家路に着くことも多い。ああ、中年の中間管理職って・・・。

 そんな何も成し遂げられない私にピッタリなのが、今月の教室のテーマ「執行機能」です。認知機能の一つですね。簡単に言うと、レシピに従って料理をするとか、活動を段取りよくこなすことに関連する働きを言います。活動を段取り良くとか、上手にスケジュール管理するとか、そもそも苦手な人って私だけではないはずです。また、歳をとって脳機能が衰えてくるとこの執行機能も失われてくることが多く、例えば認知症予防のために料理をすると良いと言うのもこの執行機能の訓練になります。執行機能は「非認知能力」の一部とも呼ばれます。知能や偏差値に関連する認知能力ではなく、実はこのような「非認知能力」が将来の成功につながると言われています。障害や年齢に関わらず、この機能の訓練は多くの人に役に立つことと考えて良いでしょう。

 発達障害で言えば、複数のステップを順を追ってやっていくことって、気が散りやすいADHDの子は一般に苦手なことが多いのはイメージしやすいですよね。他にも、二つのことを同時進行しながら行うことなども、自閉スペクトラム症(ASD)の子は苦手と言われていたりします。ABA的には、何かを完成させることに必要な行動の連鎖が上手くいかないことを言います。忘れ物が多い、すぐに気が散ってしまう、遊びをしても一つのおもちゃを出したら、それでしっかり遊ぶ前に次の遊びに移ってしまう・・・自閉症児「あるある」でしょね。

 執行機能は必ずしも「はい、これで完成です」と出来上がるものではなく、少しずつ伸ばし、気がつけば色々なことができるようになっているタイプの力です。その進歩がすぐには目に見えにくい。しかし、やはり小さい頃から意識して少しずつ訓練することで、将来大きな差を生んできます。例えば、モンテッソーリなどの教育でも、いろんな遊びに没頭することを促していきますよね。没頭して行うさまざまな遊びを通して、執行機能が鍛えられてくるのです。他にも工作を楽しむことや、想像的なごっこ遊びをしたり、いろんなステップを追って長く遊ぶこと自体が、非常に大切な執行機能の訓練の機会の一つになってきます。ただし、勝手に遊ばせておいて、放っておくだけではこのスキルが伸びるとは言えず、おもちゃの選び方や配置の仕方、そして促しの仕方、お手伝いの仕方など、多くの配慮が必要になります。子どもの療育では、遊びを通して意識して執行機能を鍛えることで、遊びが非常に大切な学びの場になっていくのです。

 この遊びを通した教育が、親からすると逆に不安になる場面があります。親からすると、できる限りたくさんのことを学んでほしい。今は子供に複数の習い事に通わせるのが普通になってきています。サッカー教室、英語教室、書き方、ピアノ、いくらでもあります。「これも教えた」「あれも教えた」と、一つ一つ教えたことがはっきりしていた方が、親は満足感があるのでしょう。しかし、一つ一つ教えたことをリストアップして親が満足していては、もったいないのです。意図的に執行機能を鍛える遊びの時間をしっかりと作ってほしいのです。例えば上手な先生が遊びをリードしていくと、遊びの環境の配慮やお手伝いの配慮を非常にスムーズに行えるので、一見「何もしていない」ように見えるでしょう。それよりは、英語教室に行ったほうが、少しでも将来の勉強の足しになるかも・・・と思えてきてしまう。でも、小さい頃から英語教室通って英語喋れるようになった人、何人知ってます?そんな小手先のことよりも、まずはしっかりと遊ぶこと、そしてその中で非認知能力を鍛えることが、非常に大切になってくると思います。

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