夢、思考、観察できない行動、見えない行動の見える化

  ちょっと前、山崎豊子の「大地の子」を読んでいるという話をしましたが、読み出したら本当に止まらないですね。面白いというか言葉で表現して良いのか、書いた人の熱量が凄すぎて、ストーリーの展開と勢いに圧倒されて、目が離せない。その前に読んでいたのが「鬼平犯科帳」だっとので、まあ勧善懲悪で安心して読めて、割と楽に楽しめたのと良い比較になりました。「大地の子」は読書に対する集中力を必要とするストーリーで、読む側のエネルギー消費量も高いと言うか、同じ読書でも楽しみ方が全然違いますね。結局通勤電車でも、短時間で乗り換えるのにちょっとでも読み、寝る前にも読んで、を繰り返していたら、遂に夢にまで出てきました。本が夢に出るって・・・私の頭の中でのドラマ映像化と言うことです。本で読んだことが夢に出てくるとは驚きました。ちなみにドラマ化されている本ですが、ドラマの方は見たことないです。夢では登場人物の顔はハッキリしていないのですが、カラーだったと思います。戦後間もない頃の中国の設定ですから、詳しい様子はよく分からないですが、例えば服装とか、「人民服」としか記述のない服装や当時の家の様子なども、ぼんやりとですが映像化されていたと思います。きっと想像で補うんですよね。私の頭ってすごい。そうそう、鬼平犯科帳も何となく映像化しながら、想像しながら読んでいたと思います。江戸時代のちょんまげの侍とか。

 よく考えると、人って凄いですよね。文字を読んで、それが頭の中で勝手に映像化される・・・。もしかすると理解を映像化するのではなく、文字を理解するために映像化があって、それが内容の理解につながるのかもしれない。頭の中であまりに自然にやっているので、普段そういうプロセスが行われている(行動が起こっている)こと自体に、気づくこともない。

 こういった頭の中の思考のような、観察できない行動をABAの専門用語で「covert behavior」(隠れた行動)と言います。そして「疲れた」「お腹が減った」状態とか、誰にも見られない本人だけしか分からない体の状態を「private event (私的な状況)」と言います。「嬉しい」「悲しい」感情とかは・・・状態?行動?まあ、見えないことだけに、行動だとも完全に言いづらいですが、感情が起こるには、何かしらのホルモン分泌は行われていそうです。分泌は死人にはできないですね。死人にできるかどうかで行動と行動でないことを分けることを「死人テスト」と言いますが、このテストをパスするので行動(covert behavior)だと言うことにしましょう。これに対して、感情表現、その気持ちを表情や行動に表すことは、観察できる行動になるので「overt behavior(明白な行動)」と言われます。

 実はこの観察できない行動や状態が絡むと、教えることが非常にややこしくなる。例えば感情表現、定型発達の子どもは教えなくても感情が表情に現れやすい。だから悲しそうな表情の時に、「そうだね、悲しいね」と、その気持ちは悲しい気持ちなんだと言うことを教えられる。けれど自閉傾向があったりして、悲しい気持ちがあってもそれがストレートに表情に出にくい場合、気持ちを教えることが非常に難しくなるのです。また、思考も同じ。先ほどの夢のように、通常私たちは言葉で言われたこと、読んだことをイメージ化することができる。これができないとなると、どうなるでしょう?「理解できない」ことになります。イメージ化したり、思い出したり、言葉を頭の中で繰り返したり、私たちは実はたくさんの見えない行動(covert behavior)をしているので、今見えている行動がそれによって上手に引き起こされるのです。例えば、電車に乗るだけでも、知らない間に何行きの電車に、何時何分に、何番ホームから乗るのか、私たちは考えている。頭の中で見えない行動をしているからこそ、間違いなく電車に乗れるのです。

 発達障害があると、こう言った見えない行動が上手にできない場合が多いのです。定型発達のように見えない行動が放っておいて勝手にうまく使えるようにならないのです。ただ、見えない行動なので、教えにくい。この場合は、見える行動にしてもらうのです。思考は、できるかぎり見えるように言葉にしたり、指差しなどの行動にあらわしてもらいます。例えば、電車の運転士さんや、車掌さんは指差し確認をしますよね。それは、非常に理にかなっていることで、通常なら頭の中でする安全確認を、実際に見える行動に置き換えることで、他の人も観察できるだけでなく、本人もしっかりと安全の確認を遂行することが可能になるのです。例えば楽しかったお遠足のことを思い出して話すことも、普通なら遠足に行った時をイメージとして思い出しますよね。このイメージする行動は見えるように視覚化できないので、写真を見てもらったりします。写真を使って一緒に、その時のことを話せば良いのです。

 見えない行動の「見える化」は難しいのですが、意識して考え始めると、意外とできる部分もありますよ。

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