考えるという言語行動

 毎年5月の終わりには、アメリカで行動分析学会があるんです。5月の終わりはどこで開催されても気持ちの良い季節ですね。今回は入国でいじめられました。「職業は?」と言われていつもこまります。「自閉症の子どもを教えています。」なんて言うんですけど、世の中には自閉症って知らない人もいますよね。 「では教員か?」と言われると教員免許持っていないのに教員だとは言えない。「サイコロジスト(心理士)か?」と言われると心理士の免許も取らなかったのでそうとも言えない。かと言ってBCBA(認定行動分析家)なんて言っても、自閉症療育の関係意外はまだ一般には知られていないので、一から説明する気にもなれない。にこやかに、「発達障害の子どもを教えています。」といっているのに、「職業を聞いてるんだ職業を!」「そこへ立て。」「お前は俺の質問をしっかり聞いていないんだ!」「そんな微笑みなんていらないんだ!」「お前がちゃんと答えないから、後で待っている人の時間を取るんだ!」なんて次から次へと言われました。お前がちゃんと聞いていないんじゃないか。明らかに自分の力関係を誇示したいタイプなんでしょうね。入国早々いきなりこれじゃあねえ。ああ、アメリカに帰って来たなあ。丁寧に扱ってもらえる日本が遠い・・・。
 今年はポスター発表しました。今回はアメリカにいた時にした、ちょっとした基礎実験を発表しました。私は臨床にいるので基礎実験なんてしたことないんですが、今回は人の言語行動についての興味を楽しんで追求してみました。私は人の言語行動って、見えない部分が多いと思うんです。つまり頭の中で考えるということです。私は一日中色々な事を考えていますし、そうすることで得になることが多い(何らかの強化がされている)から考えているんだと思います。思考というものも、一つの行動として捉えることができると思うんです。ただ、見えないからあまり研究されていない(笑)。行動主義というと、見える物に焦点を置くような印象があると思うんですが、見えないことを無視せず、むしろ積極的に分析する人たちをラディカルな行動分析家と言います。今回の学会でも、そういった見えない部分に目を当てた研究の発表がいくつかありました。
 認知心理学の人なんかは、人の認知を行動の説明として利用します。例えば、自己認識が「私は太っている」だから、実際には痩せていても拒食をしてしまう。拒食という行動を認識で説明した訳です。でも、実際には認識が行動の原因なのかという因果関係は、そう簡単には証明できない。私は行動分析的な視点から、頭の中のプロセスがどうやって行動に結びつくのか、その因果関係を証明したかったのです。
 今回やったのは、「単純な質問に答える」ということにも、頭の中の色んな行動があるからこそ「答えられる」ということを実験で示しました。実験では、10枚の写真を見せて(トマト、机、Tシャツ等)、20秒待って、その後、「では見せた写真を思い出せるだけ思い出してください。」と聞く訳です。過去に見た物を言うという単純なことですが、 見た写真の名前を繰り返したりといった頭の中のプロセス(行動)がないと、この質問には答えられない(思い出せない)とにらんだ訳です。まあ、頭の中での行動は見えないので、頭の中での思考を口に出して語ってもらうようにしました。結果は?色んなことを頭の中で考えていましたね。実は頭の中で写真の名前を繰り返すのではなく、食べ物とか洋服とか種類に分類したり、写真を使って物語を作ったり、色んなことをしていました。そして、この頭の中での行動を完全に起こらないように、計算問題等をやらせると、質問に答えられなくなるのです。さらに言えば、こういった頭のなかの行動がまだ自然に起こらない5才の子どもに、分類していく作業(大人が頭の中でやっている作業)をやらせると、大人のようにたくさん覚えていられるようになるんです。
 どうやって単純な質問に答えられるのか、過去のことを思い出せるのか?その答えは、(頭の中の)「色んな行動を通して」です。知らず知らずのうちに、質問に答えるという課題を(問題を)解決するために言語行動が頭の中で起こっているのです。逆に言えば、言語の遅れのある子どもには(言語を自然に学びにくい)、こういった頭の中の行動を教えて行かないと、将来大人のような行動ができないということもあるかもしれません。私が、「独り言は大切な基軸になる行動だ」というのは、こういうことです。頭の中での行動を言語を教える際にはしっかりと捉える事が必要だと思います。
 世の中にはまだABAで解決できないことがたくさんあります。しかしこういう単純な実験等から、行動の科学は先へ進んでいくのです。

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