ABA消去:パート2(問題解決)

 実はもう2月程前になりますが、うちのひまわり教室がネズミの被害にあったことがあるんです。「古民家を使っている」という事実を甘く見ていたんでしょうね。よく考えれば、色々ネズミの通れる穴みたいなものもあるでしょう。油断していました。というか、ゴキブリはあってもネズミが家に入って来るというような経験がないので、ちょっとと言うか、かなりショックでした。子どものおやつに出したり、強化子に使ったりするようなお菓子が用意してあったんです。小さな個別包装になっているようなやつです。半分開けたダンボール箱の中に入れて、棚の一番高い所に置いておいたんです。週末明けで教室に帰ってお菓子の箱を見ると、ダンボール箱のなかにいっぱい小動物の足跡、抜け毛、排泄物が落ちていていました。今想像しただけでもぞっとしますね。よく見るとお菓子の個別包装の袋に丸く穴があいて、その中からお菓子を出して食べていたようなんです。まさかプラスチック包装やアルミニウムっぽい包装も食い破るなんて、その時点で私の想像をはるかに超えています。「こ、これは・・・。ネズミってもしかして病気をもたらす?ネズミが触った所を消毒しないと、教室の子どもが二次感染するかも?」それから3時間くらいかけて掃除、消毒、掃除の繰り返しでしたね。こういう時一人の商売って、嫌ですね。誰にも話せずに黙々と掃除なんて、「くやしー。」としか言いようがない。
 少ししてさらに思いついたのが、「も、もしかして・・・。またやって来るかもしれない?」ホームセンターへダッシュしましたね。ネズミ駆除関係商品コーナー直行です。ネズミの嫌いな臭いのするものや、ねずみ取りのマットも。でも、これはゴキブリホイホイのでかいバージョンみたいな粘着版です。「でもこれって、ネズミが捕れたらどうするの(見たくねー)?しかも、ネズミが一匹捕れたからと言って、一匹見たら何十匹もいるんじゃないの(それって、ゴキブリ?恐怖の大量ネズミの想像図)?」そう考えたら、駆除するよりも食べ物をなくす方法にしました。取りあえず食べられそうなものは、固いタッパーウェア系の入れ物に入れる。食べ物とそのにおいさえしなければ、ネズミが来る意味がない。来ても長居しない。結局の所それから何ヶ月かネズミは帰って来ていません。でも月曜日になって教室を見ると、ちょっと怖くなります。時々古民家の土壁から落ちた土を床に見つけると、「まさか!」とねずみ取りと食べ物の場所をチェックしに行きます。もうトラウマになってる。
 すっかり前置きが長くなりましたが、ネズミが来るというのは強化子となる食べ物があるから。それをなくすことによってネズミの訪れる行動を下げるというのを、消去と言います。前にも問題行動のところで話しましたね。実はこの消去、行動を下げるという他に、もう一つの効果があるんです。行動のバリエーションを増やすんです。これまで行動の後にもらえていた強化子が、突然貰えなくなる。こうなると、その行動を逆に何度も繰り返したり、徐々に行動が少なくなる事は比較的良く知られている。しかし、これまで取らなかった行動というか、新しい行動が増えることも観察されているんです。自動販売機でお金を入れてボタンをおしてもジュースが出て来ないとすると、「馬鹿野郎ー」って言ったり、自動販売機を揺すったりしますよね(新しい行動)。そういうイメージです。
 療育ではこれを逆に利用するのが望ましい。例えば、子どもが何か欲しいとして、親が「ちょうだい」と言って要求する事を教えます。でも、次には手伝って欲しい時にも、「ちょうだい」と言ってしまう。「ちょうだいじゃなくて、手伝って、でしょ。」などとプロンプトします。子どもは「手伝って」とその時言ってくれるとします。そうすると次に手伝って欲しい時はどうなるか?次にも、「ちょうだい」って言ってしまうんです。「ちょうだい」→(親が何か言ってくれる)→(それを繰り返す)の一連の動作が強化されてしまうからです。私が療育をやる場合は、「ちょうだい」と言って手伝って欲しいものを手渡されたら、「 どうぞ」と言ってそれの物を返します。言葉通りの結果をあげるのです。正しいことを言えば、すぐに手伝ってもらえるが、そうでない限りは強化子がすぐに来ない。すぐに「手伝って」などと答えをあげてはいけないのです。これは専門的に言うと、「分化強化」とも言いますが、正しい行動を強化して正しくない行動を消去させる方法です。消去が入っているので、色んな行動が出ます。それが良いのです。その中の一つは正しい行動かもしれません。逆に問題行動もでるかもしれません。でも、この「上手く言わなければ、欲しいものがもらえない」という状況がなければ(すぐに答えを与えてしまっていては)、正しい行動を自発する事は教えられません。
 わたしの所に療育に来ると、かなり「じらせる」ことが多いのです。初めて来る子どもは「今までお母さんでは通じていたコミュニケーションが通じない」ということですから、びっくりでしょうね。いつもすぐに答えを貰っている子どもは、すぐ分かりますね。自発が少ない。欲しいものが貰えなくても、何も言わずに待っている。そしてしばらくするとイライラする。でも、このイライラが必要なんです。ここで、正しい答えを自分から見つけ出す傾向を育てないと。自分から問題解決する傾向を育てる必要がある。問題がある時どうします?「こうすれば良い?ああすれば?」って色々試してみないと、ただ待っていても解決しないじゃないですか。お金を入れても出て来ない自動販売機があるとして、揺すったり「バカヤロー」って言っても出て来ないかもしれないけれど、何もしないよりはジュースが貰える可能性が高いですよね。色々トライしてみる傾向を育てることが重要になります。

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