2013年1月10日木曜日

当たり前の表示に気づく

 この間アメリカ時代からの友達のカナコさんが名古屋に寄ってくれました。同じ療育業界の方なので、せっかく名古屋に寄ったついでに事務所まで遊びに来てくれる事になりました。せっかく東京から来てくれているのだから、電車ぐらいスムーズに案内したいところ。しかし!電車に乗るのって意外に難しいんです。名古屋名鉄線のホームにおりても「岐阜行き」とか「犬山行き」とか、行き先からして色々種類がありすぎる。そして、準急は止まるけれど急行は止まらないとか、同じホームにいても、乗れる電車と乗れない電車がある。ホームをウロウロして、時刻表をまず確かめて、「ああ、次の電車に乗れば大丈夫」と安心して待っていたところ、次の電車はピューっと私たちの前を走り抜けてしまいました。「ええ?名古屋駅なんだから通過ってことはないでしょ?」と、周りを見渡してもどうして電車に通過されたのか全然分かりません。騙されたかなあと名鉄を恨みつつ、仕方がないので駅員さんに聞きました。「あの、二ツ杁の駅まで行きたいんですけど。待ってたんですけど、通り過ぎちゃったみたいで。」こんな恥ずかしい質問ないですよね。電車ぐらい普通乗れるでしょう?年取るとどうしてこう、面白いキャラになってくるんでしょうね。しかもせっかく友人が事務所まで来てくれるって言うのに。駅員さんによると、実は同じホームでも待つ場所が違ったらしいんです。よく見ると、「車両はここまで」なんて小さく表示されているんです。そんな小さな表示でわかるか!ですよね。これはあくまで私の責任ではない。表示が悪い。断言してやった。まいったか、名鉄。
 自閉症の人の経験って、これと似てるんじゃないでしょうか。世の中にはこういった「表示」がたくさんある訳です。これに従えないと損をしてしまう。表示に気づけない人からすると、言って見れば、「なんで自分だけ電車にいつも乗り遅れてしまうのか」分からない。自閉症の人は、他の人から明らかに見える表示が、見えないんです。正確に言えば、見えないんではなくて、眼中に入ってはいても気づけないんです。例えば学校で他の子供がさーっと教室からいなくなったら、一人静かな教室で遊び続けます?自閉症の子は遊び続けちゃうんです。みんながいなくなったということは、何か先生から指示があったとか、他に楽しい事があったとか、災害があったとか、普通からすれば「何か重大な事があった」という、言わば「表示」なんです。自閉症の子ってそういう表示に気づけないんです。見えていてもそれがどういう意味なのか、どう行動すれば自分にとって得になるのか気づかないんです。
 小さな子供、比較的重度の子供の話をすると、まず人の真似をしない。人がある行動を取って大きく笑っていたりすると、普通の人からするとそれは「何か面白い事がある」という表示なんです。教えられていなくても、真似したくなっちゃうもんなんです。何のためにかは知らないけれど取りあえず列に並んでしまう人もいますよね。でも、自閉症の子は、他の人を真似すると面白かったり、得するということに気づけないんです。だから、他の人の行動が目には映ってはいるけれど、その意味はわからない。だから、真似をする事を教えるんです。真似するようになれば、将来自分で色んな事を学ぶかもしれないじゃないですか。
 実は私の教えた子供で、教えた事によって本当に真似する事が面白くなっちゃった子供がいたんです。大人の行動も、他の子供の行動も、しょっちゅう真似して喜んでいる。それだけ見れば良い結果ですよね。でも、自閉症の奥は深い。その子は「真似」だけが面白くなって、その効果に気づけなかったんです。例えば、みんなで水遊びをしているとします。他の子供が大人に水を飛ばすと、大人は「やめろよー。」なんて逃げながらも、笑っているとしますよね。水を飛ばす事ではなく、大人に水をかける事が面白いんです。それを見た自閉症の子が、真似をして水を飛ばすんだけれど、大人にかけることが面白いという意味が分からなかったんでしょうね。ただ一人で水を飛ばしていました。もう一つ例を出すと、他の子供が遊び場に座っている時に、私がその周りをくるっと回って、「いないいないバー」をしました。そしたら、その自閉症の子がやってきて、座った子供がいなくなった場所で(もう子供がいないのに)、周りをくるっと回って「いないいないバー」を真似しました。誰もいない場所に「いないいないバー」してしまったんです。
 じゃあどうすれば良いの?一つ一つ教えていくしかないんです。水かけを真似した後で、水を飛ばすだけでなく大人に水をかけることをその場でやらせて、大人からどういう反応が出るのか経験させてあげるんです。「いないいないバー」の真似をした時も、その直後に他の子供に対しても「いないいないバー」をやらせて、他の子供からどういう反応が出るのかも、経験させてあげるんです。その場その場でなければ教えられないことなんです。英語で言うと、「cause and effect」なんて言いますが、何かをやってそれがどういう結果を生むのかを体験させてあげるんです。体験した事が楽しければ、その経験によって今後真似をするだけでなく、どういう所に注目すれば自分に取って得になるのか、「注目する(表示に気づく)」事を学びます。
 自閉症の療育って、どれぐらい普通の人が当たり前に気づいている表示に気づかせてあげるか、が勝負なんです。

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