注意する派?しない派?:フィードバックと褒めること

  公園で子どもと遊んでいると、他のお父さんと子どもがキャッチボールをしに来ました。小学1、2年生かな?と思える男の子、なかなか上手にお父さんとキャッチボールをしています。何とはなく見ていると、お父さんの投げたボールがうまく取れず、お父さんからアドバイスを受けると、「うるせ〜クソジジイ」と言いました。小学校1、2年生でそんな言葉をもう覚えてしまうのですね。想像ですが、お兄ちゃんがいるんじゃないかな?と思って見ていました。お兄ちゃんがいると、良いことも悪いこともかなり早く学習していきます。そんな悪い言葉、お父さんはどう反応するのかと思って見ていたら、「ジジイじゃねえ!・・・(声を小さくして)初老だわ。」と言っていました。中々面白い。座布団一枚。

 そうです。親に「ジジイ」はダメです。このお父さんも「ジジイじゃねえ」とすぐに訂正していました。ダメですよねえ。最近公園に行っても電車に乗っても、子どもの悪い行動をしっかりと注意することを親がしない場合が多くて、びっくりします。別におしっこ漏らすほど怒る必要はないですが、少なくとも悪いことは悪いと言って欲しい。

 ABAの中では、子どもの行動について、それが良い悪いなどの評価を伝えることをフィードバックと言います。フィードバックは勘違いも多い技法の一つなので、紹介しますね。例えば、子どもが良い行動をした時には、「すごいね」「よくできたね」と褒めますよね。同様に悪い行動をした時も「それはしないよ」「良くないね」と伝えることになります。「よかったね」と行動をほめて、適切な行動を増やす強化の部分は非常にわかりやすいので、どなたにも納得してもらいやすいです。しかし良い行動が起こらなかった時、間違った行動が起こった時、どうすれば良いのでしょう?

 間違った行動をする時、行動をする人が、その行動が間違いだと知らないと困るので、まずそれを伝えます。例えば、カーナビでルートを間違えた場合、カーナビは「間違えました」とは言いませんよね。不必要な罰は与えない。しかし「ルートを再検索をしました」とルートが変わる。これは間違いを指摘することと同じになるので、フィードバックになります。指摘するだけでなく次の適切な行動をプロンプトするのが、フィードバックの役割にもなります。ただ勘違いしやすいのは、「間違えました」と言わないからと言って、間違いを指摘しなかったわけではないのです。できる限り早い段階で再検索してルートが変わることにより、間違った行動を取り続けないようにしてあげることは重要です。ですから、適切な行動を早く誉めるだけでなく、間違った行動もできるだけ早くフィードバックをしてあげて、適切な行動に置き換えてあげることが大切なのです。

 ただ、ここで別問題。間違った行動ではなく、攻撃行動、危険行動などの絶対やめて欲しい行動だった場合は同じ対応で良いのでしょうか?攻撃行動の後には、はっきりとダメだと言うことを、強めの口調で伝えます。例えば「人は叩かないよ。やりたくない時は休憩ってお願いするんだよ。」と、やらないことをしっかりと伝え、その上で適切なやり方を教えるほどと少し違いますね。「ダメ(人は叩かない)」と強めに伝える点、先ほどと少し違いますね。攻撃など社会的に悪い行動は、間違える行動よりも、本人にとってマイナスな結果を生みやすい。例えば攻撃を繰り返す子どもは、「あの子は叩くから」と一緒に遊んでもらえなくなる可能性が高く、できる限り早くゼロにしてあげる事が、叩く側の子にとっても最善だからです。攻撃行動の理由はいろいろあるかもしれません。例えば、欲しい物が上手く伝えられずに、どうしても手が出てしまったかもしれません。適切な伝え方(代替行動)を教えるとともに、「その行動(攻撃行動、危険行動)は許さない」と言うことをはっきりと最初から伝えること、そしてそのためにしっかりと大人が見ていると言うことを伝えることが、できる限り早くその行動をゼロにするために、必要な場合が多いからです。適切な行動を褒めるだけで注意をしなかったがために、長いこと攻撃行動を子どもが続けてしまう危険性は、避けたいのです。

 そして「ダメ」「やらない」「やめて」と伝えることには、実はもう一つの役割があります。それは適切なネガティブな感情表現の手本です。例えば、攻撃行動をされて嫌な思いをする被害に遭ったら、被害者として気持ちをどう表現したら良いですか?強く「やめて」と言って欲しいですよね?そこでストレートに「嫌だ」と言うことを、適切な表現で伝えるようになって欲しい。この適切なお手本がないと、学校で友達から嫌なことをされた時、どうしたら良いか分からないのです。大人も子どもから叩かれたら「やめて」「いや」とはっきり強い口調で伝えて良いのです。叩かれた時には、本人にもそう言って欲しいからです。

 こうやって話すと、では「だめ!」「やめて!」とたくさん言えば、悪い行動がなくなるのか?と勘違いされてしまう人もいます。先ほどもフィードバックには適切な行動をプロンプトする効果が大きいと言いましたよね。適切な行動を引き起こして褒めて強化する回数が、注意する回数の何倍もあって、初めて注意する部分が効果を持つ。例えば人から気を引きたい生徒は、だめ!と注意することが逆に「強化」となって行動を増やしてしまうことも研究でわかっています。そうならないためにも、気を引きたいと思わせないぐらい普段から褒めている必要があるのです。ABAの実践現場で言われることの一つに、「4対1」があります。褒める回数が注意する回数よりも少なくとも4倍多い必要があると言われています。普段から頻繁に、すごく褒めていれば、だめ!と注意することが強化となって問題行動を継続させる可能性は限りなくゼロに近くなります。注意を効果的にするためにも、褒めることの重要性は欠かせないのです。

 最初の例に戻ると「クソジジイ」はどうしましょう?親にクソジジイと言って良いかどうか、あなたはどう判断します?

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