2袋のクッキー

 先日こちらの教室で、保護者と少しじっくり目にお話をする機会がありました。この日の悩みの内容は、療育というよりも教育に関する夫婦間の意見の違いについての悩みでした。普段は控えめなタイプのお母さんなのですが、この日話したいことがたくさんで、一生懸命お話していただいて、そしてひと段落した時には、ほーっと体の力が抜けたようでした。気が付けば、子どもは母が準備してきた朝ごはんの残りをカバンから出していました。「そう言えば、朝ごはんをゆっくり食べている時間がなくて…」とお母様。お腹が空いているなら、今食べさせましょうね、と子どもに食べさせていながら、ふと私も気づきました。この状況をよく考えると…絶対にお母様も朝ごはん、食べてませんよね。子どもの食事を自身の食事よりも優先させる母親が圧倒的に多いんです。既にお昼前の時間です。相談したいことで頭がいっぱいの時ほど、子どもの準備や世話は普通にこなせても、自分の食べることとか、忘れてしまうものなんです。朝ごはんの残りを子どもが食べている間に、お母様にも教室からクッキーを2袋出しました。ママがクッキーの袋を一つ開けると、子どもが寄ってきて欲しがり、ママはそれを子どもにあげてしまう。母親ってそんなものです。自分も食べていない筈なのに、子どもを優先させてしまうんです。結局もう一袋のクッキーは、私が子どもと遊んであげている間に、こっそりと食べてもらいました。クッキーが2袋必要なのは、こう言うことです。

 ここから学べること一つ目は、相談場所を作ること。子育てをしていると、「どうしても今話したい」って言う時、ありませんか?いつでも相談できるお友達がおられる方は良いのですが、子どもの悩みっていつ起こるのか予測不可能なんです。ですから、「今ここで、どうしても」という時に、必要な相談を常に誰かにはできるように、相談できる相手との関係性を1人でも多く作っておく方が良いのです。ぜひ療育機関でも、普段から少しずつ、大したことのない話題からでも良いですので、相談しておいてください。何かあった時に相談できる関係性を作っておいて欲しいからです。こちらの教室では、予約制ということではなく、いつも通りの療育の時間でも気軽に保護者が相談できるような雰囲気を作るようにはしています。子どものこと、家族のこと、園でのこと、明日に回さずに必要な時に誰かに話すことが、子育てをする上での心の健康上、とても大切なことなのです。

 気になさる方もおられると思いますが、療育先でも、夫婦間の話をしても良いんです。これって、普通の教育ではあまり聞きませんよね。でも発達に障がいがある子どもの子育ては、定型発達の子育ての何倍も、何十倍も一筋縄には行かず、迷う保護者が多いのです。こういう時に、必ずしも夫婦間の意見は一致せず、子育ての疲れも重なって喧嘩になることも多くあり、2人とも悩み、苦しんでいる場合が本当に多い。だから、療育先というのは、そういった悩みを聞くこともお仕事の一つに設定されている場合が多いのです。

 もう一つ学べることは、ストレスがあった時にも、まずは深呼吸して食べること。話をしっかり聞いてもらったら、このお母様も、フーッと一息つけました。そうすると、周りのことが見えてきて、「ああ、私ってお腹減ってたんだ」とか、自身のことにも気付けたりします。そして少しでも何か口に入れておくと、血糖値が上がって、ポジティブなことも考えられたり、解決策も見えてきたりするものです。例えば飛行機に乗ると、緊急時の脱出口やら酸素吸入のマスクやら、色々説明がありますよね。酸素吸入のマスク、「子どもにつける前に親が先につけてください」と必ず説明されます。そうなんです。親が先に倒れたら、面倒を見る大人がいなくなってしまうからです。子育ても、まずお母様が健康で、子育てがその基礎の上にある。でも、子どもに食べさせる前に自分が食べるのって、何だか抵抗がありません?悪い親のようなイメージありません?親が先に食べるのは本来からすれば悪いことではないはずです。でも、人前ではなんだか悪い親のようで恥ずかしい。まあ、できる限り一緒に食べましょうよ。オヤツやスナックは、子どもの分だけでなく、親の分も用意しましょう。特に夕方の時間は、血糖値が下がってイライラが高まりやすい時間です。そうなる前の、もう一袋(親の分)のクッキー。大切です。

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