受け身から自発へ

 合気道を始めてから2ヶ月くらい経ちました。完全に初心者で、しかもおじさんになってから始める人もあまり多くないでしょう。まだ受け身とかもあまりうまくできません。前受け身ってわかりますかね、前方回転するやつです。でんぐり返し最近した事ある人います?ああゆう感じなんですが、でも微妙にちょっと違う(らしい)。と言うか、回った時点で自分の体がどうなっているのかまで、わからなくない?最初はやり過ぎて(と言っても20回くらいかな)くらくらして、顔色悪くなりましたよ。フィギュアスケートの人が回る時見る方向を決めておくって言うじゃないですか。そういう感じで、回転してもすぐに(投げられた)相手に視点を集中させることで、目が回ることを防げるらしい。私には無理かな。後ろ受け身ってのもあって、後ろに倒れた後に回転しちゃったりもできるのですが、そっちはさらに難しい。何度やっても普通の後ろのでんぐり返しみたいになって、それではダメらしい。
 最近やっとちょっとだけ「投げ稽古」というのをやらしてもらえるようになりました。(こういう名前がついているかどうかは定かではない。)先生に、「投げて下さい」ってお願いして、何度も何度も投げてもらうんです。有段者がやると、受け身の人の体がきれいに空を舞う感じで、空中でくるりと回転して「バーン」と畳に投げつけられている。美しすぎる。私がやる場合、投げる先生の方も「こいつ本当に投げたら怪我をする」というのが分かってるから、かなり慎重にやってくれるんですよ。ですから見た目には、ただ「誘導者付きでんぐり返し」の練習をしている感じ。それでも何となく武道をやっている実感ができて、投げられるのが段々快感になってくるんですよ。「も、もっと投げて下さい・・・」とまでは言っていないが、ちょっとMな感じ。でも先輩方と話をしてると、皆投げられるの好きなんですよ。あれだけ美しく舞えれば違うでしょう。それは投げられたいでしょう。わかる、わかる。昨日も自分からお願いして投げられて、ちょっと肩が痛い。というのはやはり受け身が上手く取れていないせい。
 受け身と言えば、自閉症の子は自分から能動的に人との関わりを始めるというのが難しい。合気道の「受け身」とは違う意味ですね。最近読者から「むっちゃ強引に自閉症につなげる」と言われるが・・・ま、いっか。自閉症の子のは基本的に受け身に人から関わってくれるまで待つというか、たとえどんなに困っていても、自分から能動的には人に働きかけるという事はまず選択肢に入っていない。自閉症でない言語の遅れのある子どもは、言葉が出来ないなりに、近寄って来て語りかけようとしたり、指差したり、それなりに自分で伝えようという意思が伝わります。自閉症の場合は、視線も合わせないので、コミュニケーションしようという意図がないという印象です。重度の子どもは、欲しい物があってもただ泣くだけなので、相手からすると何に困っているか想像するしかない。親の視点からすると、子どものかんしゃくを防ぐために、親の方が子どもの欲しい物を先読みして与えてしまったり、子どもに合わせる事を学んでしまう。向こうから働きかけてくれないというのは普通の人間関係ではありえないことですから、「どうして良いのかわからない」というのが当然だと思います。
 療育をする場合は、「要求する」という事をまず教えますね。要求することを教えることで、自分の欲しい物・ことを伝えられる。さらに言えば、「何か欲しいの?」と親から働きかけてもらえなかったとしても、何か欲しければ(嫌な事がある時は)自分から働きかける姿勢を付け加えられれば素晴らしい。というのも、話せるけれど自分からは言えない自閉症の子ってよくいるんです。学校で課題が自分だけできなくても、「先生に質問する」「隣の子どもに聞く」ということができない。どんなに言葉が話せても、自発のない子どもは損です。親等の知っている人の間ではそれなりに合わせてもらっているために問題がないけれど、学校などの気を使ってもらえない場面ではうまく機能することができなくなってしまいます。
 PECS (Picture Exchange Communication System、ペックス)って知ってます?発語があまりない子どもに、言葉の代わりに絵カードを使って好きな物を伝える、コミュニケーションの手段の一つです。その第2段階で教えることは、自発的に本人から働きかけることです。例えばお菓子を持っている大人が、「欲しいの?」などと関わりかけずに、わざと横を向いて子どもの方を見ていない。そういう状況を意図的に作って、子どもが大人の注意を自発的に引いてから(手の中に絵カードを入れたり、肩をたたいたりして)要求することも教えます。意地悪ではないんです。毎日ちょこちょこで良いですから、わざと気づいていないふりをして(いじめているような気もしますが)、子どもが自発的に働きかけなければ行けない状態を作ってあげてください。自発的に行動することを覚えることは、本当に本人のためになります。絵カードを使わない子どもにもこの第2段階だけは教えたいぐらい。ペックスの第2段階にはこれ以外にも色々臨床上ためになることが多く盛り込まれています。
 自発性のない、受け身傾向のある子どもに色々なことを教えて行くと、やはり教える側がその過程でう使う手助けに頼ってしまいやすい。将来的に自分から使えるようになるために手助けするのだけれど、結果として手助けされるまで受け身で待つようになってしまうこともある。例えば、人に会って挨拶することを教えるとします。何を言うべきか知らないのですから、「今日は。」と見本を見せるでしょう。しかし受け身系の子どもは、いつまでたっても自分から言わずに、「今日は、って言った?」と聞かれるまで待っている。手を洗ってても、「次は何するの?」って言われなければ、蛇口をひねったままぼーっとしてしまう。
 突然手助けを止めてしまうと行動自体がなくなってしまうので、手助けを徐々に減らしていく事が必要です。色々な方法が使えますが、基本は手助けのタイプを徐々に変えて行くことです。教え始めの時は、手取り足取り手助けしなければ行けないこともあるでしょう。そのうち見本を見せるだけとか、指差してみるだけとか、口で指示するだけとか、徐々に手助けのタイプを変えていくのです。それでも自発ができなければ、「ちょい待ち」を使います。 手助けする前に、3秒とか5秒とかちょっとだけ待つのです。この際、口では言わないし、指差したりもしないけれど、じーっと見つめたりして、イメージとしては、「何かしなければいけない」というオーラを出す訳です(オーラが実際にでるわけでないので注意・・・)。子どもがこの大人の視線というか顔だけ見て、「あ、何かしなければならない」と気づくようになってくれば(完全な自発ではないけれど)、まあ上出来です。この方法は実際に研究で効果も証明されている。まあ顔をじーっと見つめる事はあまり関係ないかもしれない(オーラも研究には入っていないので注意)。子どもがこの3−5秒の間に何もしなければ、普通に手助けしてあげて良いのです。これを何度も何度も続けているうちに、子どもが手助けされる前に自分からできるようになる。徐々に待ち時間を長くして行っても良い。この「ちょい待ち」ですが、結構難しいものなんです。親トレーニングをしていると、私が3−5秒待っている間に親がだいたい「○○しなきゃだめでしょ。」とか、指差しながら「ほら」とかって、答えを言ってしまう。「自発して欲しいので、言わないで下さい。」なんて言うんですけれど、癖みたいなもんですから、なかなか直らないのも仕方がない。
 文字が読める子どもには、自分で管理させることを教えることもできる。例えばトランプなんかのゲームのルールを覚える際に、ルールを順番で書き出したメモのような物を渡しておいて、一つ一つ指差しながらゲームを遂行させていく。「ゲームが一つ出来たからどうなんだ」、「ちょっとメモを使うと言うのも自然じゃないんじゃないの?」という方もおられるかもしれませんが、やはり一つでも他の子と一緒にできる遊びがあると、他の子ともつながりができる。一緒に遊んで楽しいという経験を持たせる事ができる。私の教えていた子どもで、これがきっかけで初めて20分間続けて(大人が監督してなくても)他の子と一緒に遊べたんですよ。自然じゃないかもしれないけれど、それがきっかけになって他の子と一緒に遊べたということは、一つの成功体験じゃないでしょうか。それがきっかけとなって、近所の世話好きな女の子の家で「お泊まり」までしてきたなんて言われたのでびっくりしました。
 自分の行動を自分の手助けに使うという流れで言えば、言葉を使うのが一番自然でしょう。言葉が比較的十分に話せる子どもには、独り言を使って自分の行動を手助けする方向に変えて行っても良いでしょう。大人って色々な独り言を普段から言っているじゃないですか(頭の中で言うのは独り言とは言わずに、考えるというかもしれない)。色々行動しながら、頭の中で考えている言葉が自分なりの手助けとなって、適切な行動が出来る。例えば新しい料理を作る時なんか、「ええと、卵3個、それから塩とこしょうをいれて・・・」なんて独り言を言うじゃないですか。頭の中で言う場合もあるし、口に出す場合もあってどちらでも良いですが、これを子どもにもやってもらうようにする。挨拶することを教える際も、人に会ったら、「挨拶して」と言わずに、「ああ、○○君が来たね。人に会った時は・・・」なんてナレーションにするだけで答えは言わない。子どもにもこういうナレーション的な独り言を普段からするように教えたいので、周りの状況を色々言葉にする見本を聞かせてやる。言葉にすることで、「人に会った時は・・・ああ、挨拶。」という答えが自分で見つけ出せる。これはある程度常に言葉を使えている(ある程度の独り言ができる)子どもにしか使えない方法ですね。この方法は実際には自閉症の療育という面では研究されてはいないのですが、理論上有意義だと納得出来るので、私は使いますね。
 受け身の子どもが本当に自発に変わるというのは、実際は難しいことなので、少しずつでも自発の行動が増えて成長していってくれると良いですね。

コメント

このブログの人気の投稿

自閉スペクトラム症と運動

スモール・ステップで勝ち負け、「負けて悔しい」を教える

第3回オンラインABA講座「そんたく」