性的暴行について

 日本ではほぼ報道されなかったのですが、つい最近アメリカで大きな話題になった性的暴行事件がありました。アメリカの最高裁の裁判官になる候補者とされていた裁判官について、ある女性が「私は高校生だった頃に彼に性的暴行を受けた。彼が最高裁の裁判官になる前に、アメリカ国民はそれについて知るべきだ。」と報告して来たのです。もちろん高校時代、当時両者とも15歳というのですから、何十年も前の話です。最高裁なら政治的な影響力も非常に強いので、その裁判官候補を推しているトランプ政権への政治的な嫌がらせの一種なのではとも当初疑われました。
 その話がマスコミに漏れて話題になることにより、被害者女性が自ら名前を明かすと、何と家族も子どももいて、しかも大学で研究する心理学者で、軽々しくすぐにバレるような嘘をつくような人間にも見えません。ちなみにいうと、私は直接知りませんが、私が帰国前に教えていたカリフォルニアのPalo Alto大学にも所属している先生なんです。俄然興味が出て来ました。性暴力の被害者、特に女性が、被害に対して声をあげづらい中で、「Me Too」運動、日本語で分かりやすく言うと「私も性被害を受けたからあなたも負けずにたち上がろう」という運動が全世界で広まっています。この追い風を受けて、この被害者先生の所にはアメリカ中から応援の声が届き、「頑張って」と手紙を書いた15歳の女子高校生が取り上げられたりもしました。また逆に、マスコミが家に押し寄せ、トランプ政権支持者から痛烈な批判を受けたり、殺人脅迫などまで受けて、被害者先生は家族もろとも家を追われる状態にまでなりました。
 結局マスコミの大騒ぎで裁判所での公聴会が開かれ、その被害者先生も、被疑者最高裁判官候補も、マスコミ報道の前で、それぞれの見解を話す日がやって来ました。アメリカ中がその時は飛行機の中でも全員がその様子を見守り、静まり返ったと言います。なぜか私も親身になってYoutubeしてしまいました。被害者先生の発言はアメリカ中の共感を得て、被疑者裁判官は「それは俺じゃない」と言い張り(もちろんトランプは「彼のサポートをする」と言い)、彼の高校時代とイエール大学時代の飲酒の様子まで含めて皆が意見をして、大きな議論となりました。本当に大切な問題です。やっていたら大変なことですし、やっていなかったら大変な冤罪ですし、正式な手続きを踏んでは欲しいです。また、何十年も前のことでも、正しいことと信じて勇気を持って発言した被害者先生も、応援したい。
 発達障がいのお子さんを持っていると、性的暴力の被害者や加害者となってしまう場合などは、本当にその可能性が心配な問題です。ただ、最高裁の裁判官候補が被疑の当事者となることからもわかる様に、どんなに優秀であってもあり得る問題です。巻き込まれる事件のタイプは違うかもしれませんが、発達障がいだからと言って、特に巻き込まれる可能性が高いとか低いとか言うことでもないのかもしれません。また、「こうすれば良い」と言った分かりやすい解決策があるわけでもない問題です。よくソーシャル・スキル・トレーニングなどで、「Noと言えるコミュニケーションの力をつける」と言うのも聞きますが・・・・あなたならNoと言えますか?発達障がいでに関わらず、中々言えないからこれだけ世界的にも「Me Too」と言う運動となっているんですよね。アメリカのケースでも、何十年も前の話です。被害者先生の発言では、その時パーティーに参加して高校生なのにビールを飲んでいて、それで親にも言えず友達にも相談できず悩んで、でも何十年も被害を受けたことが忘れられなくて・・・と言う部分もありました。普通の大人が普通に悩む問題ですから、発達障がいをサポートする側も、普通に悩んで解決を模索し、時に解決策はないかもしれないけれど、それでもどこかに心の落としどころを見つける作業を続けることになるかもしれません。
 こう言った事件を未然に防ぐためには、個人でできる部分は限られているとも思います。こう言う被害者がいると言うことを世間一般が理解し議論すること、そしてどの様にそう言った被害者が生まれにくい状況、被害を受けても意見を言いやすい状況を作るのかを社会全体として考える必要があると思います。日本では、Me Too運動もあまり大きく取り上げられませんでした。性被害に関わらず、被害者が立ち上がると「出る杭は打たれる」傾向にあるのかもしれません。スポーツ界でも続々とハラスメントの実態が報道されています。日本の至る所で「力の強いものが支配する」まだまだ発展途上な部分があると言うことを理解するところから始めなければいけないと思います。

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