アメリカ自閉症教育における訴訟、倫理、システム改善

 日本のTPP交渉参加を受けて、その中でもISD条項といって参加する国の企業が(日本や他の参加国の)政府や自治体を訴訟できるようになる制度のことが話題に上がりました。今後TPPに参加するとなれば、海外の企業から日本国家が訴訟され、大変な債務を負うようなことになる可能性が懸念されています。アメリカでは訴訟が多いということを良く耳にするんじゃないでしょうか?訴訟をやりまくっている国なので、経験という意味ではアメリカが有利になるかもしれません。被害者の立場を自分で守るという姿勢自体は良いのですが、あまりに信じられないような訴訟の話も聞きますよね。アメリカの訴訟で一番信じられない話として聞いたのは、マクドナルドでホットコーヒーを注文して、お客さんが自分でそれをこぼして火傷して、マクドナルドを訴えたという話です。自分でホットコーヒー頼んでおいて、自分でこぼしたんだから、火傷するなんて当たり前じゃないの。訴えるか?しかもオカしいのは、これが訴えた側の勝訴に終わって、それからマクドナルドは「熱いので注意」とコーヒーのコップに書かなければいけなくなったとか。まったく常識を外れることにもお金と労力をかけていますが、基本は被害を受けたと思えば恥ずかしがらなくても訴えられるというのが鍵です。訴える側はそうする権利があるのです。しかもこの訴訟がいくつも行われることによって、アメリカでは自分たちの法律や社会のシステムまでも徐々に変えていく感もあります。
 カリフォルニアで働いていた頃は、特に自閉症の教育において生徒の親が学校側を訴える訴訟や訴訟になりそうなケースをよく見かけました。 小さな市であるにも関わらず、その時だけで6件も平行して訴訟を抱えていました。カリフォルニアの学校区(市の職員)として働き始めて3ヶ月もしなかったんじゃない頃ですかね。私の入る前にあった出来事をめぐって学校側が自閉症児(生徒)の親から訴えられており、私も学校の仕事の一環として訴訟に巻き込まれました。
 アメリカのABAで超有名な先生が親側の専門家の証人として呼ばれいて、私の運営するセンターにも(その生徒が過去に在学したということで)見学に来ました。親側の証人ですから、当然相手の弁護士から私のセンターの悪い所を見つけるように指示されて来たのでしょう。私も先生の本を持っており、できればこんな状況じゃない時に先生に会いたかった。その時は主に家庭訪問のサービスをしていたので、先生を私の小さなカローラに乗せて生徒の家まで行きました。私の生徒ですが、泣きましたね。特別問題行動の多くない子を選んだのですが、初めての訪問者を凝視して(自閉症なのに意外に視線合わせ上手いじゃん)1時間以上ほぼ泣き通しでした。当然ながら普段している教育なんかを見せられることもなく、訪問も終わりました。普段泣く事なんて全然なかったから選んだのに・・・。法廷で私のセンターについてどんな報告をされたんでしょうかね?帰りに先生がカローラの中で、「学校で働いているのか?良い経験になるよ。」と言ってくれたのが印象に残っています。
 私も有名ではありませんが博士号まで持っているので、学校側の専門家の証人として呼ばれました。私が訴えられているのではないのは分かりますが、それでも本当に緊張しますよね。証言台ってやつですかね、そこで何と3時間も学校側の弁護士と親側の弁護士から質問を受けました。さすがにぐったりしましたね。弁護士に証言の前に言われた事があります。「あなたは学校側の証人です。もちろんウソをついてはいけませんが、相手の(親側の)弁護士の質問、特に学校に不利になることを答える必要はないのです。答える前にとりあえず3秒待って下さい。学校に不利になる質問には私が意義を唱えますので(”Objection!"ってやつ)時間を下さい。」という内容でした。頭のどこかで私が困ったら「Objection!って言ってくれる!カッコいい!」と思いつつ、一方で、学校に不利になるからって答えなくて良いんだろうか?という疑問が浮かびました。不利とか不利じゃないというんじゃなくて、正しい判決が下されれば良いんじゃないの?(そうは言いませんでしたが。)まあ結局はあまりに緊張していたのでそんな事は頭から飛んでしまい、学校側の弁護士に3秒与えることなくすべての質問に即答してしまい(意外に雄弁でしたね)、後で学校側の弁護士に叱られました。言っちゃダメって言われても事実だから仕方ないよ。だからアメリカでは、弁護士は倫理観のない職業の一位に選ばれているんだ!と思いましたね。
 ちなみに弁護士はその訴訟のために毎日夜遅くまで働いているようでしたが、彼らは時給で働いています。働いた時間はすべて100%支払われるそうです。それを考えたらこの件だけでも凄い値段をかせいでいましたよ。まあ弁護士が悪い人たちって訳でもないんですけどね。良い人もたくさんいます。
 こういった訴訟を通じて、親側の声というのが本当に学校側に届くのです。訴訟の結果を通じてどれぐらいの教育を学校側が提供しなければ行けないのかの相場というか標準が定まってきます。その相場に不満があれば、さらに法律を変えようかという話も出て来る訳です。ちなみにこの件で学校側を訴えていた親は、後にカリフォルニアで健康保険を使ってABAを含む自閉症の療育が支払われるという法律が成立した際に、積極的に運動に参加して大きく貢献していました。アメリカではこうやって一歩一歩、親が声を出して社会のシステムを変えて行くんだなあと実感いたしました。
 さらにちなみにですが、 ミシガン州の特殊教育では最近10年で訴訟は10件以内だと言う事です。ええ?カリフォルニアではあんなに小さな市でも一度に6件訴訟があったのに・・・。州によってそんなに違うんですね。確かにミシガンでは自閉症早期療育の導入はかなり遅れましたが、最近やっと健康保険の導入が認められました。やはり親があまり声を上げない所では、システムの改善も遅れるんでしょうね。

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