福祉、自閉症、治療、教育

 先日(3月3日)自閉症の早期教育を根付かせようと頑張っておられる、NPO法人ADDSさんのセミナーに呼ばれて東京に行ってきました。今回は講演する側ということでしたが、自閉症児を持たれる親御さんや治療教育関係者など100人を超える方が参加して下さい、ありがとうございました。日本でも自閉症治療教育への関心の高まりが感じられ、はっきり言って意外でした。というのも、アメリカから帰って来てある日本の親御さんの体験談を聞くと、自閉症の診断を受けた時は「そのまま受け入れてあげて下さい」というようなことを言われ、特別にABAなどの療育についても紹介されなかったとおっしゃっていました。事務所の近所の特別支援の幼稚園では、「ええ、毎日やるんですか?ABAの先生も一度来られたけれど、ABAは月に一回とかやるものだと思っていました。」と言われました。日本では治療教育について誰もまだ知らないのではないか、という漠然とした印象を受けていました。しかし会場では明らかにかなりの知識を持たれた方からの質問が続き、あまりに対照的で新鮮でした。日本でも知っている人は知っているんですね。逆にそう言う知識を持った人の集まりが今回のセミナーであり、新しい動きの象徴であるのでしょうか、自閉症の治療教育についての知識と経験が徐々に培われつつあるんだと感じました。私の講演の内容について興味のある方は、ADDSさんがブログの方に報告してくれていますので、よろしければそれも合わせてごらん下さい。100人を超える参加者を集められたADDSさんと、それを支えられた裏方さんに感謝します。学生セラピストさんが託児までしていただいたようで、ありがとうございました。
 今回の講演については、「アメリカの事例を紹介して下さい」と依頼を受けました。アメリカに12年もいたんだから、そりゃ紹介くらいは簡単にできます。しかしスライドを作るにつれて、本当にこんな事知りたいんだろうかという疑問がわきました。みんなアメリカの進んだ療育の話はよく聞きますよねえ。親からしたら、今すぐ手に入らない物の話を聞かされても、はっきり言ってやってられないですよね。スライドを見ると、「羨ましいでしょう?20年後にこうなるかも?日本もがんばろう!」という感じになってて、そんな話セミナーで聞いて帰って、自宅で自分の子どもの療育の現実を目にして、頑張ろうというよりは逆にがっくりするんじゃないかと思いました。これを見た参加者から「やってられるか!」って、暴動が起こるかもしれないと思いました。じゃあ何が知りたいのか、日本から見た視線を知りたいと思い、やはり頼るのはインターネットですね。ちょっと色々なサイトを検索したところ「アメリカの福祉は非常に良い」という言葉を見ました。やっぱりそういう話はみんな聞いている。
 ちなみに検索にはどんなキーワードを使われますか?「自閉症、治療、教育、福祉」。日本の治療教育の現状を知りたい、公的資金の使われ方などを検索したいと思った時に、私は知らず知らずこういったキーワードを使って検索いました。しかしこの時に何となく同じことを英語で検索しようと思ったら、福祉という言葉の翻訳が私の頭の中に浮かばなかったんです。ここで気づきました。私は福祉の専門家じゃなくて、心理・教育の専門家です。12年アメリカにいた時にもほぼ福祉という言葉は仕事上使いませんでした。これまでアメリカにいた時から感じていた、日本の制度への違和感はこの福祉と教育の誤解から来ているのですね。というのも、アメリカにいて日本のことを聞いて一番驚いたのは、「日本では、障害が認められれば手当などのお金が出る。」ということです。生のお金ですよ。アメリカではあり得ないです。教育には資金が出ても、何に使ってもよいお金が直接親に与えられるなんて事は、かなりの貧困層でない限りないんです(日本でも収入制限はもちろんあるが、それほど低くはない)。もちろん電車等の優遇もない。他にも公的資金がでないのは、託児所関係。自閉症児、健常児に関わらず、幼稚園前に子どもを預けて仕事に出たかったら、自分でお金を払って託児所やベビーシッターに預けるんです。就学後の放課後デイや子どもを預かってくれるところは、ほぼ有料です。一般にアメリカは福祉という面では、日本より手薄なんです。「福祉の後進国だ」なんてテレビで言っているコメンテーターもいましたが、私は福祉が遅れているというよりも国民の選択によって、福祉よりも一人一人の責任を重要視しているからと思います。福祉の盛んなのは何と言ってもヨーロッパですよね(お金もかかるのでそれが良いかどうかは別として)。
 教育に関してもアメリカと日本はちょっと違いますよね。住む場所によって良い所と悪い所の差があまりにも大きい。日本でもまあ差はあるのですが、アメリカの差に比べたら可愛いものです。差が激しいと言う事は、自分の子どもの教育も低い方に流れる可能性が常にあるということですので、アメリカでは一市民として自分の子どもの教育の権利は自分で勝ち取るのです。与えられるものを頂くという受動的な態度ではなく、一人一人の親が常に頑張って子どもの教育を良いものにします。教育業界にはAvocateっていう人たちがいるんです。この人たちは特定の資格のある人ではなく、自分たち自身が障害を持つ子どもを持っていたり、療育に携わった経験から、お母さん達の応援役として学校との交渉に加担してくれる人たちです。日本から来た親御さんですと、「ええ?Advocateですか?そこまではちょっと。」と言われる方が多いです。学校と対等に交渉して少しでもよい教育にしていこうという意識や経験もないでしょうし、もちろん日本では事を荒たげないことが重要視される場合もあります。
 ということで講演の内容も「アメリカでこんな良い療育があるよ。」というものから、「アメリカのウソ・ホント」というスライドに書き直し、「本当の所はどうなの、アメリカ?」という感じで進めました。この方が聞く方もまだ力が湧いてくると思ったんですが、どうでしたでしょうか?

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