新学期:表情や表現の難しさ

 暑くなりましたね。2週間前には寒くて暖房をつけていたのに、突然冷房が必要なくらいになって、冬から春を吹っ飛ばして夏になった気分です。幸い暑さのせいか花粉症は大したことがなかったのですが、気温の変化に体がついていかないですね。
 うちの教室の子供達も気候の変化に加えて、新たに保育園や療育の場所を始めた子どもが今年は比較的多いので、そういった子は新学期を迎えたストレスで荒れ気味です。新学期、小学生や中学生も大変ですが、保育園や幼稚園に初めて通うようになる子どもも大変ですよね。学校生活ということ自体を知らないまだ3歳とかの子どもに、「保育園に行ったらたくさん子どもがいるんだ」と口で説明しても、その意味はなかなか実感として伝わらないです。その頃を覚えていない私たち大人から、「こういうことが大変だよ。」と、子ども目線で教えてあげることもできないですし、保育園について行って「こういう時は、こうしたら良いよ。」と言ってあげることもできないのですから、多くの問題は子どもが自分で解決するしかありません。20人以上の子どもを一人の先生が見ているような環境で、一人一人のニーズに合わせた教育は難しいのが当然でしょう。今までだったら親が色々と問題を解決する場所に一緒に入られたのに、突然知らない場所で、色々な子どもと一緒に、なんとか生活しなければ行けないのですから、それは大きなストレスがかかるでしょう。
 定型発達をしている子どもでも、大体最初の3ヶ月くらいは大変だということをよく耳にします。朝バスに乗るのを嫌がってお母さんにしがみついて泣き叫ぶのが2ヶ月くらい続いたなんて話もよくあります。自閉症などの障がいを持てば、さらにそのストレスが倍増することもあるかもしれません。というのも、自閉症や他の発達障がいは基本的にコミュニケーションの障がいを含む場合が多いので、自分で言いたいことをうまく伝えられなかったり、周りをしっかりと見ていないので何が起こっているのか理解できなかったり、人から言われたことをすぐに理解できなかったりするのですから、ますます混乱することは避けられないでしょう。しかし、自閉症のお母さん方から、「うちの子ってストレス感じてますかね?(ストレスなんてないんじゃないか?)」と言われることが結構あります。というのも、自閉症では特に、ストレスが表情や行動にうまく出ない場合が多くあり、周囲からすると「いつもと同じ」に見えてしまう場合もよくあるからです。
 例えばよくあるタイプとしては、普段はお母さんがあんなに好きでベタベタしているのに、お母さんが離れたり隠れたりしても「しれー」っとしている場合が結構あります。泣いて嫌がらないのです。そうすると、お母さんとしては楽ではありますが、「この子は私のことを本当に母親として愛しているのか?」とまで疑ってしまう場合もあります。しかし、それは大抵の場合顔や行動に出ないだけの話なのです。ストレスがかかっていないわけでもないので、他に支障が出ます。例えば保育園などでを始めた子で、園では別に特にパニックになることもなく「リラックスしている」「楽しそう」と先生に言われているのに、家に帰ってからちょっと何か気に入らないことがあるだけで泣いて止まらないとか、なんだか元気がないとか、いつもと違う様子が観察されます。
 極端な例では、「泣いたらお母さんがいなくならないかもしれない」、とか、「探したらおお母さんが見つかるかもしれない」、という簡単な原因と結果が理解できない場合もあります。お母さんがあんなに好きで普段ベタベタしているにもかかわらず、お母さんが隠れても探さないのです。いなくなってしばらくすると、泣き出す場合もあります。しかし、泣いていたにも関わらず、お母さんが帰ってきても表情すら変えませんし、泣いて近寄ったりもしません。こういう子は、大好きなオモチャなどでも、うまく探したり、うまく欲しいと体で表現できないので、比較的わかりやすいです。
 どうして嬉しいことや好きなことを「嬉しい」「好き」と表現できないのでしょうね。その理由はわかりません。ただし、療育を続けていくと、そういった表現自体が徐々に上手になる場合が多いです。お母さんや先生を見て嬉しそうにする確率が増えてきます。もちろん直接「笑いなさい」という表現の仕方を訓練をするわけではありません。好きなことを増やして、そして好きなことやものを手に入れるのにはどうしたら良いのか、色々と試行錯誤する傾向を育てるのです。そうすることで、好きなものがないときに自分で何とかしてそれを見つける、問題解決する傾向がつき、それが達成できたときに自然に「嬉しそう」な表情が増える場合が多いと思います。これは私の臨床の経験からの発言なので、科学的根拠は今回はありません。

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